【建物明渡請求】【賃料増額請求】【老朽化】低廉な家賃のまま老朽化が進んだ貸家について、居留守を使うなど一切の交渉を拒否する賃借人に対し、賃料増額調停から訴訟を経て、建物明渡を実現した事例
1.相談者の性別、年代、ご要望等
- 貸主:法人(不動産業者)
- 貸家(借家):長屋(平屋建て)、築45年以上
- 借主:独居の高齢女性
- 滞納されている賃料:滞納なし
- 相談者:法人の代表者
- 具体的なご要望:建物明渡請求(相手方に退去してもらいたい)、賃料増額
2.ご相談内容
相談者様は賃貸業を営んでおり、前の大家より築45年以上の長屋を買取り、新しい貸主となりました。
長屋は、建築当時から一度も修繕が行われず、非常に老朽化が進んでおりました。
また、20年以上前より家賃の値上げが一度も行われず、低廉な家賃のまま現在に至っており、万一、大きな地震が来た時に建物が耐えられないと思われましたし、賃貸借を続けるにしても、いったん解体し、耐震性を備えた建物を建て直した方が良いと感じていました。
相談者様が、長屋の居住者に対し、このまま居住することが危険であることを説明すると、長屋の居住者のうち、2部屋の借主は納得して、立ち退きに応じてくれました。
しかしながら、残りの1部屋に一人暮らしをしている高齢の女性のみ「出て行きたくない。」と言い、応じてくれません。
相談者様としても、強制的に立ち退きを迫るのではなく、あくまで現状の状況を理解頂き、納得した上で退去してもらう方針であり、何度か電話や来訪したものの、相手方の態度はどんどん硬化し、着信拒否をされたり、ついには居留守を使われたりと、取り付く島もない状況になってしまいました。
このままでは話し合いすらできないため、相手方に対する建物明け渡しや賃料増額に関する請求は可能なのか、今後の相手方への対応について当事務所にお電話にてお問い合わせがありました。
担当弁護士において、まずは相談者様からのお問い合わせのお電話で簡単に相談内容を伺ったところ、相手方に退去してもらい、建物を解体したい。少なくとも、退去に応じてもらうまでは、周辺の相場に見合った家賃を支払って欲しいというのが、相談者様のご要望でした。その電話の中で相談者様の希望する日時で相談予約が取れたことから初回相談(無料)にいらっしゃいました。
3.法律相談後の経過
(1)初回無料相談
初回無料相談で、経緯を詳しく伺い、前の大家から引継いだ賃貸借契約書や建物の写真を拝見しました。
担当弁護士からの本件の見通しと弁護士費用の説明を受け、一旦は委任をするか検討したいとのことで、初回相談は終了しました。
後日、相談者様より改めて担当弁護士宛にお電話があり、当事務所に委任されたいとのことでしたので、委任状及び委任契約書を取り交わしました。
今回のように委任するか否かについて、初回相談の場ですぐに決定しなければいけないことはありません。
じっくりご検討いただき、決定していただければ構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。
(2)賃料増額請求調停
委任状を取り交わしたため、今後は弁護士が窓口となり、相手方と交渉を行うことが可能となります。
相談者様としては、早く退去して欲しい気持ちがありましたが、賃貸借契約においては、無断転貸、数ヶ月以上の家賃滞納や契約違反等の事由(いわゆる「正当事由」と呼ばれる事情)がない限り、法律上、借主は保護されています。
実務上、建物の老朽化を理由とする立ち退き請求がなされることは多くありますが、一口に「老朽化」といっても、本件のように、未だ建物の居住や使用に支障が生じていない程度の老朽化で、家賃滞納や契約違反等の事情がない場合、裁判所が退去の正当事由があると積極的に判断する可能性は高くないのが実情です。
一方、本件では、この長屋の賃料が長年上がることなく、低く留まっていると考えられたことから、賃料増額請求を検討しました。
相談者様が長屋の周辺物件の家賃相場を調査したところ、相場よりも賃料が3万円程度安いと考えられ、当事務所スタッフの調査でも同様の結果が判明しました。
そして、相手方が、家賃の値上げについて交渉に応じる現実的な可能性はないと考えられましたので、裁判所に賃料増額請求調停を申し立て、以下の事由をふまえ、賃料の増額の正当性を主張しました。
- ①相手方は、20年以上の長期にわたって賃借しているが、賃料が全く変わっていないこと
- ②近隣の類似物件の賃料相場よりも、3万円程度安いこと
- ③諸物価の高騰、固定資産税その他公租公課の増加など、経済的事情の変動
しかし、最終的には相手方と合意が成立せず、調停は不調に終わりました。
(3)賃料増額請求訴訟
調停が不調となったため、弁護士及び当事務所のスタッフらは、速やかに訴訟提起準備に移行しました。
なお、賃料増額請求については、調停前置主義がとられており、いきなり裁判を提起することはできません。相手方が応じないと分かっていたとしても、まずは、調停で話し合いによる解決を図り、調停で解決できない場合、裁判を提起することとなります。
調停と同じように、賃料が不相当であることについて説明し、3万円増額することを主張しました。相手方は、裁判では弁護士を立ててきましたが、数回の裁判期日を経る中で、裁判所より賃料増額が相当であるとの心証が被告(相手方)へ示されると、相手方はこれ以上住み続けることを諦め、立退きに応じる意向を示しました。
最終的には、数十万円の立退料を支払うことを条件に、相手方は、2ヵ月以内に退去するという内容の和解が成立しました。
(4)和解成立、建物明け渡し
和解の内容は、以下のとおりです。
- 賃貸借契約を合意解除する
- 相手方は、2ヵ月以内に建物の明渡しをし、退去する
- 当方は、立退料として相手方に数十万円を支払う
- 相手方は、退去まで月3万円の賃料を支払い、退去が遅延した場合は、遅延損害金を支払う
- 相手方の原状回復義務は免除
- 退去後、相手方の所有物が残置されている場合、当方で処分して良い
相談者様は、立退料を支払い、2ヵ月以内の退去が実現されました。建物の明け渡しも完了したことから、本件は無事に解決となりました。
退去後、長屋は解体され、相談者様は、無事、新たな建物を建てることができ、賃貸業で収益を得ることができるようになったそうです。
4.解決までに要した期間と三輪知雄法律事務所の弁護士費用
三輪知雄法律事務所が解決までに要した期間と弁護士費用は以下のとおりとなります。
解決までに要した期間と弁護士費用
- ご相談から解決までの期間:1年程度
- 三輪知雄法律事務所の弁護士費用
・ 着手金:44万円(消費税込)
・ 報酬金:44万円(消費税込)
※実費、日当等は別途。
※費用は、あくまで参考としてお示しするものであり、個別の案件やご相談内容によっても異なりますので、詳細は法律相談の際に担当弁護士までお問い合わせください。
5.三輪知雄法律事務所の担当弁護士からのコメント
三輪知雄法律事務所
担当弁護士:平松 達基
出身地:名古屋市。出身大学:名古屋大学法科大学院。主な取扱い分野は、建物明渡や立ち退き等の不動産問題、遺留分や遺産分割、企業法務など。
老朽化した建物を取り壊したいが、借主が立退きに応じてくれない。賃貸借契約で決められた家賃が、前の大家の時代から長年変わっておらず、低廉で、収益にならない。
しかしながら、建物の老朽化だけの理由で、立退きをさせることは難しく、強制的に退去させることもできません。交渉を繰り返しているうちに、借主との関係が悪くなり、訪問を拒絶され、電話や手紙での連絡にも一切応じなくなってしまったという事例をよく聞きます。
本件のように、直接の交渉により、借主が感情的になるなど関係がこじれたり、問題が長期化するなどして、解決が難しくなるケースもありますので、まずは専門家にご相談ください。
本事案の相談者様のように、所有されている借家について「建物が老朽化しており、解体したいが、借主が立退きに応じてくれない。」などお困りのことがあれば、お気軽に三輪知雄法律事務所の法律相談(初回無料)をご利用ください。
6.賃料増額請求、建物明渡請求に強い弁護士へのお問い合わせ
「賃料増額請求、建物明渡請求の交渉に強い弁護士」へのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間・平日 9:00~18:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
※この記事は公開日時点の法律をもとに作成しています。
※争点等を理解しやすくするため、結論に影響がない範囲で事案の一部を簡略化して記載している場合があります。