【親族間の使用貸借】【契約解除】【明け渡し】【信頼関係の破壊】親族に長年、使用貸借させていた不動産について、信頼関係破壊を理由に契約を解除し、明け渡し請求に成功した事例

1.相談者様の性別、年代、ご要望等

  • 相談者様:60代女性
  • 対象財産:不動産(土地)
  • 親族間の土地の使用貸借契約(無償で使用させていた)
  • 契約書がない
  • 信頼関係の破壊を理由とした使用貸借契約の解除と明渡請求

2.三輪知雄法律事務所へのご相談内容

親族間の土地の使用貸借を解消して立ち退いて欲しい

相談者様には兄が1人おり兄は結婚して息子が1人いましたが、妻によるモラハラや金遣いの荒さが原因で、息子が小学生の頃に離婚され、その後は婚姻時のモラハラが原因でうつ病を患い、遺言書を残すことなく苦しみながら病気で亡くなられました。

兄は、生前、離婚後にうつ病を患いながらも、父親の面倒を見ながら心機一転やり直したいとのことで、父親と住む家を父親が所有する土地の上に建てることになりました。

父親はもちろん、相談者様も心から兄の再出発を応援し、土地の契約は、兄が父親の面倒を見ながら同居することを前提に、父親と兄との間で特に契約書を締結することなく無償、つまり使用貸借という形で兄が亡くなるまで同居されていたとのことです。

使用貸借とは?

借主が無償である物を貸主から借り、その借りた物について無償で使用及び収益をした後、その物を返す契約のことです。
契約終了時期を決めず、使用の目的だけを決めた場合は、目的達成時に終了します。

兄を亡くされ、悲嘆に暮れていた相談者様でしたが、高齢の父親を引き取って一緒に住むことになり、葬儀の後、兄の家は無人の状態でした。その後、まもなくして父親が亡くなり、相談者様は父の遺言に従って兄に使用貸借している土地を相続しました。

しばらくすると、兄の家に兄の息子と兄の元妻が無断で住み始めたのです。兄名義の家ですから、息子が相続するのは当然ですが、相談者様と兄の息子の関係は非常に悪く、相談者様が所有する土地を無償で貸すことは心情的に認められない状態でした。
また、兄のうつ病は、息子が非行に走り、兄の元妻と一緒になって兄を心理的に攻撃することが続いたことが大きな原因であり、そんな兄の家に何の悪びれた様子もなく堂々と住み始めたことは許しがたい行為でした。

そもそも、父親と兄の土地の使用貸借契約の目的は、その土地の上に建てる建物で、兄が父親の面倒を見ながら同居することであって、兄が亡くなったことにより目的は果たされたことになり、契約の終了を意味します。この目的達成による使用貸借契約の終了を理由に、相談者様が所有する土地と兄の家から、兄の息子を退去させることはできないか?とのことで、三輪知雄法律事務所に相談にいらっしゃいました。

3.今回のご相談の問題点

(1)契約書がないこと

使用貸借契約は、親族間や親しい間柄でなされることが多く、信頼関係があることを前提に無償で貸す契約なので、そもそも将来、トラブルが発生することは想定されていないものです。
ですから、貸主や借主が死亡した後、信頼関係のない相続人たちの間でトラブルが発生することが多いのです。

民法では、「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」とされています。
※民法597条3項(改正前民法599条に対応する)

しかし、建物の所有を目的とした土地の使用貸借契約は、借主が死亡したからといって当然に終了するものではなく、特段の事情がない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに終了するとされているのです。つまり、兄の息子が建物を相続し、そこに居住し、生活をしているから、土地の使用を終えていない、使用貸借は終了していないと主張すれば、借主の死亡を以て使用貸借を一方的に終了させることは困難なのです。

契約の終了期限が定められた契約書を交わしていないということは、当事者間の事情が変わったからという理由では簡単に契約を終了できないということですので、不動産の賃貸借には、必ず契約書を締結することが大事です。

(2)遺言書がないこと

兄は生前、自分の財産が息子を通じて元妻に渡ることを恐れており、息子には何も相続させないと言っていたにもかかわらず、遺言書を作成せずに亡くなったことが、更に揉める原因となりました。

遺言書がないということは、法律で定められたとおりの相続人と割合で、相続が行われることになります。自分の死後、相続させたくない親族がいる場合などは、必ず遺言書を作成することが大切です。

4.三輪知雄法律事務所に相談後の経緯

相談後、三輪知雄法律事務所の担当弁護士は、兄の息子の代理人弁護士に対し、この使用貸借は終了しているため、建物の収去と土地の明渡を求める内容の通知書を送りました。
しかし、兄の息子は相続を理由に建物への居住を頑なに続け、何度か交渉を行いましたが合意には至らないと判断し、裁判所に訴訟を提起しました。

5.裁判所への訴訟提起から判決確定まで

(1)双方の主張

◆当方の主張

  • 使用貸借契約は、当事者相互間の信頼関係にその基礎を置くものであるから、当事者間の人間関係が悪化するなどし両者の信頼関係が破壊されていることが認められれば、(改正前)民法597条2項の類推により、貸主は使用貸借契約を解除できる。
  • 本件の使用貸借契約の使用目的は、兄が父親の面倒を見ながら同居することであり、兄の死亡と父親が建物を退去したことにより使用目的は達成され、使用貸借契約は終了した。

当方は、まず、父から土地を相続し、貸主となった相談者様と、その上に立つ建物を兄から相続して借主となった兄の息子の著しい信頼関係の破壊状況について、それを裏付けるあらゆるエピソードを依頼者から伺い、事細かに証拠とともに主張しました。

また、本件の使用貸借契約の使用目的を明らかにするため、兄の生前の言動や行動、父親の世話をする前提で建物にエレベーターをつけたこと、スロープや手すりをつけるなど、高齢者の生活しやすいバリアフリー設計がなされていたことを主張するため、建物の設計図写真等を証拠として提出しました。

併せて、兄と兄の息子の関係性が極めて希薄であったことやうつ病の原因に息子の言動や行動が大いに影響していたこと、兄が生前、自分の財産が息子を通して、精神的に息子を支配する元妻に渡ってしまうことを危惧し、「自分の財産は息子には相続させない。」と相談者様たちご家族に話されていたことも主張しました。

当方の主張の根拠条文

改正前民法597条2項(現598条1項)

当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。

この条文を根拠に、信頼関係の破壊を理由とした使用貸借を解約出来るとした最高裁判例

 最高裁判所では、父母を貸主とし、長男を借主として成立した返還時期の定めがない土地の使用貸借であって、使用の目的が、建物を所有して会社の経営を行い、その経営から生じる収益により父母を扶養することである場合においては、借主は、特段の理由もなく父母の扶養をやめ、兄弟とも往来を絶つ等、使用貸借関係の基礎となった信頼関係が崩壊した場合は、(改正前)民法597条2項ただし書を類推適用して、貸主は借主に対し使用貸借を解約できるとしました(最高裁昭和42年11月24日判決)。

◆相手方の主張

  • 相談者様と兄の息子の関係悪化の原因は、相談者様の言動や態度のせいであり、兄の息子に非はなく、使用貸借をただちに解除するほど信頼関係が破壊されているわけではないこと。
  • 兄が、息子に何も遺産を相続させたくないとは考えていたはずがないこと。
  • 土地の使用貸借の目的が、父親と同居するためだけの建物ではなく、単純に建物を建築する目的に他ならないこと。

上記の点を主に主張し、建物からの収去と土地の明け渡しを拒否しました。

(2)裁判所の判断

数回の裁判期日を経て、原告と被告の証人尋問も行い、裁判所は、当方の主張を大方認め、(改正前)民法597条2項ただし書の類推適用による解約に基づき、相手方に建物収去と土地明渡を命令する判決を下しました。

◆裁判所の認定した当方の主張

  • 相談者様と兄の息子の信頼関係が破壊されていること
  • 兄の息子は、本件建物に居住開始するまでは元妻の家に住んでおり、現在も元妻の家は元妻の所有のまま住める状態であることから、本件建物に特段住まなくてはいけない必要性が無いこと
  • ご相談者様からご依頼を受けてすぐ、三輪知雄法律事務所の担当弁護士が、兄の息子の代理人弁護士宛に、使用貸借終了による建物の収去と土地の明渡に関する通知書を送ったことが、この使用貸借の解約を申し入れたとみなされること
  • 使用貸借契約の解約通知日から土地明渡済みまでの賃料相当損害金の支払い

このように、貸主と借主の信頼関係の破壊を理由に、使用貸借契約の解除・終了を認め、相手方は建物の収去と土地の明渡をせざるを得なくなったのです。

(3)今回の裁判での難しかった点

使用貸借という曖昧な契約を終了させるためには、信頼関係の破壊を裏付ける証拠が必要でした。
相談者様とは何度も打合せをし、兄と元妻の婚姻時の出来事から兄が亡くなるまでの息子との関係性、相談者様や相談者様の父親と兄の息子との関係性について、あらゆる具体的なエピソードを洗い出し、それらを裏付ける証拠となりえるものは全て出していただきました。
また、兄の親友にも兄の当時の発言や心情などを証言してもらうなどし、兄が自分の財産を息子に相続させる気がなかったことや、相談者様との信頼関係の破壊を主張し続けました。

「信頼関係の破壊」というはっきりとした物証がない事柄を証明するのはとても困難でしたが、最終的には当方の粘り強い主張を裁判所が認める結果となりました。

6.解決期間と弁護士費用の目安

ご相談の事例において、解決まで要した期間と三輪知雄法律事務所の弁護士費用は以下のとおりとなります。

解決までに要した期間と弁護士費用

  • ご相談から建物収去・土地明渡までの期間:約1年半程度
  • 三輪知雄法律事務所の弁護士費用
    ・ 着手金:30万円
    ・ 報酬:80万円~120万円程度(不動産の価格に応じ、個別のお見積もりとなります)

※税、実費等は別途。
※費用は、あくまで参考としてお示しするものであり、個別の案件やご相談内容によっても異なりますので、詳細は法律相談の際に担当弁護士までお問い合わせください。

7.三輪知雄法律事務所の担当弁護士からのコメント

弁護士 三輪知雄 写真


三輪知雄法律事務所 
担当弁護士:三輪 知雄

出身地:名古屋市。出身大学:京都大学法科大学院。主な取扱い分野は、離婚事件、企業法務、倒産事件、相続事件。

親族間の不動産の貸し借りにおいても、必ず賃貸借(使用貸借)契約書を締結することをおすすめします。

亡くなる前に、必ず遺言書は作成することをおすすめします。本件で貸借に関する契約書や遺言書の作成がなされていれば、建物の返還をめぐって裁判を起こす必要もなく、解決期間も相当短縮化でき、弁護士費用も10分の1程度で済んだ可能性があります。

当事務所では、個人間での賃貸借契約書の作成や、遺言書の作成を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

8.三輪知雄法律事務所の不動産の使用貸借契約の解除、明渡請求、建物収去土地明渡訴訟の対応に強い弁護士へのお問い合わせ

三輪知雄法律事務所の「親族間の使用貸借、契約解除、明け渡し請求の対応に強い弁護士」へのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間・平日 9:00~18:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。